虹窓の科学 -The Window is Painted-



2.「虹窓」の原理


「虹窓」と呼ばれるこの窓は、直径1mほどの大円形の下地窓である。下地窓とは塗り残し窓、葭窓(よしまど)ともいわれ、壁を塗り残すことによって小舞下地(竹を格子状に組み、つるなどで結んだ下地)を表し、その室内側に障子を設けた窓のことをいう。そして小舞下地である竹や葭の影が映り、この影が障子を彩る訳である。そしてこの窓には窓の外の環境である景色が間接的に映り込むのである。上方からは青空の青光が、前方からは竹薮の緑光が、そして下方からは土の(秋には赤く染まった紅葉の落ち葉で埋め尽くされるらしい)赤光が竹や葭のフィルターによって、障子に色を出すわけである。そしてこの現象が顕著に表れるためには物理的な距離をも重要な要素となる。景色の色分布の比率、小舞下地の間隔と太さ、そして小舞下地と障子の距離。これらの要素が絶妙なバランスがとれたときに、「虹窓」なる現象が表れるわけである。例えば小舞下地と障子の距離の関係では、距離が短ければ色の重なり合いは起きづらく、また距離が長いと小舞下地の影自体がぼやけすぎてしまう。そしてもう一つ重要なのは、決して直射日光が当たってはいけないということ。微妙な色の変化は直射光が当たることによって打ち消されてしまうからである。図の窓は西側を向いてはいるが、約2mも張りだした軒と前方の竹薮によって基本的には直射日光を遮られることになっている。
実はこの「虹窓」現象はこの祇王寺だけではなく、他にいくつもの例があり、また別の茶室などでも「虹窓」と呼ばれている窓があるということが、多くの茶室を尋ね歩くことで解かった。基本的には下地窓と呼ばれる窓には、大なり小なりの「虹窓」現象が見受けられるのである。実は下地窓の手法は田舎屋の塗りさし窓を見た利休が茶室に応用したのが始まりと伝えられている。利休は単に下地を見せるのではなく、力竹(下地窓の外側に添える竹の柱)や割竹を下地に混ぜ、陰影のリズムを強調させることと、外壁の景趣を兼ねていた。茶室での窓のあり方は、空間にどのような光を取り入れるか、茶を点てる亭主とお客をどのような光によって見せるかがその目的であったのであろう。室内に光を取り入れるという目的だけではなく、どうも障子に表れる「虹窓」現象が人々に受け入れられていたのではないだろうか。
また茶室には連小窓(れんじまど)と呼ばれる窓がある。これは障子の外側に縦方向に竹や木などで一定の間隔をおいて取り付けた格子を打ち付けた窓のことをいう。、あた有楽窓(うらくまど)と言われる窓は連小窓の一種で、外側から竹を隙間無く打ち付けた窓のことをいうが、これらの窓は外部環境を横方向に分解する「虹窓」といえる。特に有楽窓はその細い隙間から入る稿は分光された、影というよりまさに光の色による影の妙技といえる。

  

 
連子窓。
縦方向の下地は窓外の風景を
横方向に分解する。
  有楽窓。
下地の蔭は相殺され、
光の縦縞がさまざまな表情を持つ。

1.「虹窓」との出逢い
2.「虹窓」の原理
3.「陰影礼賛」は日本の光?
4.フランスで見つけた「虹窓」
5.日本のあかりの機能的な側面
6.「虹窓」は環境投影装置

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